ぱらのーまる・あくてぃびてぃ! イギリスさんちの幽霊産業
最近寒くなってきましたね。去年イギリスで過ごしたときも、10月になると急激に日が短くなって、気温が下がりました。
たぶん私がイギリスで過ごした9ヶ月間の中で、一番天気が悪かった時期じゃないのかな。毎日冷たい雨が降って、私はちょうど前より遠い寮に引っ越したばかりで、すごく悲しい気持ちで吹きっさらしの道を歩いていた記憶があります(^ ^;)
幽霊を愛するイギリス人を見て私が思ったこと、それは、イギリスには「幽霊」っていう産業ジャンルが確実にあるってことでした。
というわけで今回は、イギリスの不思議な「幽霊ビジネス」についてお伝えします!
◆ 幽霊と観光地
幽霊がビジネスになるってどういうこと? と思われるかもしれませんが、その経済効果は日本でもひそかに出ているそうです。
日本全国の心霊スポットの数は218か所(最も多いのは京都の27か所)。そしてそこを訪れる人々による経済効果は、なんと1200億円にのぼります(ホンマでっか!?TVの片倉さん情報)。

イギリスで有名な心霊スポットといえば、貴族や王族の監獄として利用されたロンドン塔ですよね。
そこでは血塗られた歴史を背景に、処刑された女王様や貴族の幽霊が出ると言われていますが、今では年間約200万人が訪れる一大観光地です。
私が留学していたヨークも負けてはいません!
なんとヨークは「世界で一番恐ろしい都市」を標榜中!
物の本によると、ヨークはあの小さい街に500を超える幽霊・妖精の類がいるんだそうで、そんなにいたら、歩いているだけで普通にすれ違っていそうですね(^ ^;)
なんといってもヨークの強みは長い歴史を持っていること! 街の中心部にあるお屋敷、トレジャラーズ・ハウスは、そんな歴史を背景とした幽霊が出ることで有名です。
トレジャラーとは「会計官」という意味で、この建物は元々はヨーク大聖堂の会計官の住まいとして作られました。
イギリスの王族がヨークを訪れたときに宿として利用された歴史もある、由緒正しきお屋敷なんですよ。
現在は内部が一般公開されていて、昼間はたくさんの観光客が訪れるこのお屋敷、幽霊話の舞台は地下室です。
幽霊の目撃者は、配管工見習いのハリー。1953年のことでした。
当時17歳、配管工事のために屋敷を訪れたハリーさんによると、
「あの日、私は確かに地下室で角笛の音を聞いた…そして見たんだ!
古代ローマ人の軍隊を!!」
イギリスでローマ人の幽霊だと!? といきなり突っ込みたくなりますが、このお話、まったくの荒唐無稽というわけではありません。
実際にヨークには、紀元前1世紀ごろからローマ人がやってきており、現在の場所に街の基礎を作ったのも彼らでした。イタリアからイギリスまで攻めてくるなんてローマ帝国はすごいですね!
ハリーさんによると、角笛の音が次第に大きくなり、突然地下室の壁から馬やそれにまたがるローマ兵、その従者が次々と現れて、ヨーク大聖堂の方角に歩いて行って姿を消したのだそう。
さらに彼がはっきりと覚えている特徴として、幽霊たちは全員、ひざから上しかなかったということがあります。それは日本の幽霊のように浮いている、というわけではなく、地面にひざ下が埋まっているという状態だったようです。
奇妙な姿の幽霊。その謎は数十年後に解かれることになります。
1990年代になると、トレジャラーズ・ハウスに考古学の発掘調査が入ることになりました。
そこで例の地下室の床下から発見されたのは、一本の道の遺構!
ローマ時代のものと判明したその道は、床下18インチの深さ、幽霊が現れた壁から、ヨーク大聖堂の方角にまっすぐ続いていました。
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トレジャラーズ・ハウスの等身大幽霊パネル |
18インチ=45センチメートルといえば、ちょうど大人のひざ下の長さに相当します。
つまりハリー青年が見たローマ兵士の幽霊たちは、自分たちの時代の道の上を歩いていたというわけです。なんとも史実に忠実な幽霊ですね!
幽霊っていうと、非科学的な産物って馬鹿にされることが多いかと思うんですが、
ポルターガイスト現象が起こるから地面掘ってみたら、ヴァイキングの集落の跡だった!
とか、
変な声が聞こえるから地面掘ってみたら、ローマ人の墓があった!!
などなど、歴史都市ヨークの幽霊は考古学に多大なる貢献をしています(笑)
ゴースト出る→発掘調査って流れがすごく好きです^^
◆ゴースト・ツアーに行こう!
もっとイギリスの怖い話を聞いてみたい! という方には、ゴースト・ツアーがおすすめです。
約1時間から1時間半くらいの長さのウォーキング・ツアーなのですが、夕方集合でガイドさんが街の怪談スポットへ連れて行ってくれます。費用も3~5ポンド(500~800円)とお手軽です。
ロンドンやエディンバラといった主要観光地はもちろん、ちょっとした観光地なら小さい町でもやっている、イギリスで人気のアトラクション。
そして自称世界一恐ろしい街ヨークは、自称ゴースト・ツアー発祥の地。そういう積極的に主張していくスタイル好きですよ。
それだけあって、毎晩7時ごろになると別々のツアーが5つくらい同時に動いています。私はヨークでは2つのツアーに参加しましたが、それぞれ演出にこだわっていて面白かったです^^
ただ、文化の違いか、私たちが思う「怪談ツアー」とはちょっと違う気がするんですよね。
せっかくなので、私が感じた特徴を下でまとめてみます。
ゴースト・ツアーの特徴その1: 創作<史実
ゴースト・ツアーなんだから幽霊の話をしてくれるんだよね? って思って参加すると、何か違和感を感じるかもしれません。
もちろん幽霊話も聞けるんですが、連れて行かれる先は、昔の処刑場や墓場だったりして、ゴーストというよりは、「うちの街の怖い歴史ツアー」といったほうがいいのかも。
処刑場では、ガイドさんが昔の残虐な処刑法について教えてくれるんだけど、彼が口で作る「グチャッ」とか「グシャッ」とか「ベシャッ」とか、なんかそこらへんの音がやけにリアルで怖いです
||゚Д゚))))
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ゴースト・ツアーの特徴その2: 目撃譚がやけにリアル
「この墓場には自分の首を探す幽霊が出るんだけど、最近では2014年の8月24日夜10時ごろ、シェフィールドから来た奥様が…」
2014年8月っていったら、今から2か月前(当時)じゃないか!
昔々あるところにっていうアバウトな感じではなくて、新聞記事かってくらい詳しく情報を教えてくれるところが特徴ですね。
幽霊話を全く知らない他の地域から来た人々が、同じ幽霊を繰り返し見ているってこともゴースト話をリアルにするポイント。
ゴースト・ツアーの特徴その3: ちょっと不謹慎??
その1で明らかな史実が混ざるって書いたのですが、歴史上の悲劇と創作っぽい話を同じみたいなテンションで話すので少しびっくりします。
1190年、ユダヤ人が住民に追われ、お城の塔で集団自殺に追い込まれたって話は、ヨークの歴史の中でもとても大きな悲劇なのですが、ゴースト・ツアーでは単なる恐怖譚みたいな感じで扱われていたりして、おいおいそのノリで話しちゃって大丈夫かってなります。国によってはバッシングが来そう。
猟奇殺人、拷問、公開処刑、政治がらみの不当裁判、疫病などなど、昼の観光では表に出てこない裏の歴史を実にライトなノリで紹介してくれるので、勉強にはなるんですが…中世以前のことはもう時効なのかな?
◆Hauntedな○○
ゴースト・ツアーが終盤にさしかかってくると、ガイドさんがお客の一人に話しかけます。
「ところで、今晩はどこにお泊りですかな、マダム? ― ああ、ディーンコート・ホテル? 素晴らしいホテルですね」
ひとしきりそのホテルをほめてから、
「― それで、そのホテルには幽霊が出るということはご存じでしたかな?」
などと、あまりありがたくない情報を嬉々として教えてくるので注意。
ここでは、私のようないかにも学生って感じの人ではなく、少し裕福そうな奥様に話しかけるのがポイント。
イギリスでは「幽霊が出る」ってことはホテルにとっては必ずしもマイナス要素ではなくて、古くて格式のあるホテルなら当然でしょ、とステータスの一つとして捉えられる場合があります。
今回話題に上がったディーンコート・ホテルも、毎年いろいろな賞をもらっている高級ホテルなんですよ!
ヨーク大聖堂の目の前にあるディーンコート・ホテル
ちなみに、ポルターガイストなどの怪異が一番頻繁に起こるのは36号室。それとは別に、地下にはヴィクトリア時代のメイドの幽霊が出るらしいので、メイドさん好きの人は会いに行ったらいいんじゃないかな?
幽霊が出るホテルに泊まってみたい! という人は、「Haunted」という言葉を使って自分で検索してみましょう。
「Haunted」とは「幽霊に取りつかれた」という意味の形容詞なので、それを頭につけて、
幽霊が出るホテルを調べたいときは、「Haunted Hotel」
幽霊が出る城を調べたいときは、「Haunted Castle」
と入力し、最後に地名を入れれば、イギリスの幽霊が出るスポットを簡単に検索することができます。
「イギリス一恐ろしい幽霊屋敷」を調べたい場合は、「the most haunted house in UK」で検索すればOK。
別にどこにあるともわからないホグズミード村まで行かなくても、イギリス一恐ろしい屋敷はイギリス全土にたくさんあるので、一番お近くのイギリス一恐ろしい屋敷に行けばいいと思います。
あと、「Haunted Rooms」というサイトもおすすめ。
幽霊の出るホテルを地域ごとに探すことができるので大変便利です↓
Haunted Rooms ホームページ
http://www.hauntedrooms.co.uk/haunted-places-to-stay
◆イングランド一恐ろしいパブ
さて、他にも幽霊がよく出る場所として、イギリスの居酒屋、パブがあります。
ヨーク代表は、Golden Fleece Inn 金の羊毛亭。
吊り下げられた金の羊の看板が目印!
とりあえず1503年にはすでに創業していた(!)というこの超老舗のパブ兼旅館も、イングランド一恐ろしいパブ(The most haunted pub in England)であると絶賛主張中。棲みついているのは、個性豊かな5人の幽霊です。
パブに出る気難しい男性の幽霊は、カウンターの角席がお気に入り。気に入らない客がいると、イスから落としてしまうこともあるんだとか。
パブの様子。薄暗くって壁に絵がたくさんかかっている、パブらしいパブです
一番の人気者は「会いに行ける幽霊」ことSaul Goodfellow くん(飲み友達のソールくんっていう意味) 。たいてい奥のカウンター席で飲んでますので相席OKです。
自分のFacebookページを作ったりTwitterをやったりと、日々忙しいGolden Fleeceの広報担当。
2階は旅館になっていて、ルーム4には、1945年の滞在中にその部屋で自殺した、カナダ空軍の軍人さんの幽霊が出ます。その部屋に泊まっていると彼の影が見えたり、眠っているときに冷たい手でなでられたりするそう…
何とも気持ちの悪い話ですが、Golden Fleeceはわりといい旅館なので、新婚旅行中の夫婦が知らずに宿泊しちゃうこともあるんだそう。でも、彼はそういう場合にはそっと控えて気配を感じさせない、空気の読める幽霊です。
幽霊といっしょの部屋なんて嫌だよ! と思うかもしれませんが、彼らは数十年、下手したら数百年単位でその部屋を通年予約している超々VIPなので、こちらのほうが相部屋させてくださいって姿勢で行ったほうがいいのかもしれませんね。
◆ゴーストハント・ツアー Ghost Hunt Tour
イギリス人の幽霊好きが極限まで突き抜けてしまっているのがこちら。上で紹介したHaunted Roomsというサイトでも特集されている、ゴーストハント・ツアーです。
前に紹介したゴースト・ツアーがなんちゃって歴史探訪街歩きみたいだったのと違って、こちらは本気で幽霊を捕まえに行くツアーです。
行く先は幽霊が出ると噂の古城、お屋敷、旧刑務所、廃工場などなど。
開催する時間帯も夜の9時から午前3、4時までと、いかにもな感じです。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Margam_Castle_-_geograph.org.uk_-_1308540.jpg
「超常現象研究者Dr. キアランと行く! パラノーマルな週末」みたいな2泊3日のツアー(今回の行き先は古い学校)もあって、それには、
- 宿泊場所
- フル・イングリッシュ・ブレックファスト
- 夕ご飯
- お弁当
- Dr. キアランとの2晩のゴースト・ハント
- 建物内の自由探索
- Dr. キアランによる悪魔憑き&悪魔祓い体験
- ビクトリア時代の降霊術
- テーブル・ティッピング/ ウィジャボード(西洋式こっ○りさん)
- お茶、コーヒー、ホットチョコレート
以上のメニューが含まれています。悪魔を憑依させるってそんな簡単にやっていいもんなんですかね。
なお、K2メーター、電磁場測定器、動作感知器、高感度サウンドレコーダー、赤外線カメラなど、あらゆる種類の最新式ゴースト・ハント機器が使用可なので、ぜひ持って行きましょう。
ゴーストハント・ツアーは参加費も割とお高めで、大体50~100ポンド(9,000~18,000円)くらいが相場のよう。Dr. キアランが付くとさらに高い。一晩でそれって考えるとちょっと手が出ないぜ…!
こんなの誰が行くんだろうと思いますが、実際けっこうたくさんのゴーストハント・ツアーが売り切れになっていて、需要があるんだなーとびっくりします。みんなどうしてそんなにパラノーマルなアクティビティを求めてるんだよ…。
◆おわりに
イギリス人と幽霊の不思議な関係、おわかりいただけたでしょうか?
これは単なる私の感覚なんですが、日本の幽霊の方が復讐に対して一途で真面目だよなあと思います。
いや、イギリスの幽霊のほうがよっぽど残酷な死に方をしている場合が多いんですけど、死後はわりとのんびりきままに過ごしているのかも…? と想像させる話に良く出会います。
処刑の際、切れ味の悪い斧で首を45回ぶった切られて幽霊になったにもかかわらず、死後はホグワーツの寮憑きゴーストとなって生徒たちと交流し、あまつさえ自身の絶命500年記念パーティーを盛大に開いちゃう、ほとんど首なしニック(『ハリー・ポッター』シリーズ)とか、意外と典型なんじゃないだろうか。
イギリスがすごいのは、幽霊に絡めて歴史のダークサイドまでを観光資源にしているってとこですね。そういうのを軽ーいノリで勉強するっていう考え方(ライトなダーク・ツーリズムとか言うらしい)もアリかとは思うんですが、日本ではまだ少し受け入れ難そうかなあとは思います。
でも、留学中、イギリス人ってほんと幽霊好きだよねー、日本ではこんな風に愛されてないよって話を中国から来た友人にしたことがあったんだけど、
友 「え、でも世界一怖い幽霊屋敷は日本にあるって聞いたよ?」
私 「えっ?」
友 「なんか古い廃病院とかって…ちょっと待って、今画像出すから」
「ほら!」
違う!! そうだけどそうじゃないんだ!!
世界にはばたけジャパニーズ・ホラー!
なお、今回紹介した場所に行って、幽霊に出会った、出会えなかった、取り憑かれたなどの問題に関しては、私は一切責任を持ちませんのでご了承くださいm(_ _)m
それではみなさん、"Happy ghost hunting!"
参考文献・Web
Kirkup, Rob, 2012, Ghosts of York, York: Amberley Publishing.
『ヨークの幽霊』128ページもある。
Britania: トレジャラーズ・ハウスの幽霊について
http://www.britannia.com/history/legend/yorkghosts/yorkgt05.html
Golden Fleece Inn のWebページ
http://www.thegoldenfleeceyork.co.uk/
Haunted Rooms
http://www.hauntedrooms.co.uk/
ヨークで行われているゴースト・ツアー一覧
http://www.visityork.org/thedms.aspx?dms=11&groupid=5&catid=7&itemtype=336&nd=All&ba=A