かるがもリポート りたーんず! さよなら1£コイン?!





昨年の11月、イギリスを再訪してきました!

ヨークでは、先生やまだ大学で勉強を続けている友達、そして湖のカモたちにまた会うことができて、本当に嬉しかったです^^

約2年ぶりのイギリス。友人の変わらないあたたかさにほっとする一方、変わったところも目につきました。




とても内輪な話をするならば、大学指定バス(ユニバス)が44番から66番に変更になっていたこと。以前ユニバスカードにチャージして、使いきれなかったお金がパアになってしまいました。

そしてもっと大きい話が、イギリスのお金の変化

私はこのブログを始めたばかりのころに、1£コインのUK学という記事を書いたのですが、当時は思ってもみなかった変化が起きようとしています。






というわけで今回は、今まさに変化を遂げようとしている1ポンドコインについての再報告です!


◆3月28日お目見え! 十二角形の1£コイン


イギリスでは1983年以来、金色の丸い1ポンドコインを発行してきましたが、2017年3月28日(この記事の公開日!)、33年ぶりにデザインを刷新したコインを発行しました!

その新しいコインがこちら!




特徴としては、

・ 2種類の金属を組み合わせている
・ 見る角度を変えると文字が浮き出る
・ 小さい文字を入れる
・ サイドにも細かな彫り込みを入れる

などなど。他にも隠された特徴があるそうですが、なんといっても目を引くのが十二角形というその形。イギリスの造幣局MINTさんのサイトでも、“New 12-sided coin”というふうに紹介されているので、やはりこの形が一番のチャームポイントなのだと思います。

初めて十二角形と聞いたときは、どんだけカクカクにする気だ! とびっくりしたのですが、実はイギリスでは1937~1970年に使われていた3ペンス硬貨(当時は十進法導入前だった)がすでに十二角形だったり、そういえば現在使われている20ペンス・50ペンス硬貨も、さりげなく七角形だったりと、硬貨をカクカクさせることはそこまで珍しいことでもないようです。

50ペンス硬貨。あんまり気にしたことがなかったけど、七角形というあまり見ない形。


◆世界一安全な硬貨を目指して~イギリスのニセガネ事情



このリニューアルが目指すところはただ一つ、偽造通貨の撲滅です。MINTさんは新しい1ポンドコインについて、「世界一安全性の高いコインができた!」と強調しています。

というのも、現在のイギリスは、私たちの想像以上に偽札・偽コインに悩まされているのです。

イングランド銀行の発表によると、市場に流通している1ポンドコインのニセガネ率は、
2.5~3パーセント!(2014年:3.03%、2015年:2.55%)


パーセントだといまいちピンときませんが、30~40枚に1枚は当たり前のように偽物と考えると、かなり高い割合ですよね。

日常的に大量の1ポンドコインを扱う、コインパーキングのオーナーなんかは、「銀行の言ってる割合なんて甘すぎ。俺の感覚だと、20枚に1枚はニセガネだね」と言っているので、実際はもっと多いのかも…

これには、従来のコインが、あまりに偽造しやすかったというところに原因があるようです。



これまでのコインは、

・単色
・サイドに線や文字が彫ってはあるが、単調
・模様もそんなに難しくなく、特殊な加工もしていない

など、偽造を難しくするような工夫が少ないものでした。

William Warby 撮影 https://www.flickr.com/photos/wwarby/4860324973


また、本物は銅・亜鉛・ニッケルの合金ですが、他の金属を混ぜ合わせても、似たような色や質感を出せるため、実際20ペンス(1ポンドの5分の1)ほどで作成できてしまうそうです。そのようにして作られた偽1ポンドコインは、ブラックマーケットで70ペンスで購入され、小遣い稼ぎ的なノリで市場に出回っているのだとか。


偽コインが横行しているということは、イギリスの人々にとっては周知の事実のようで、2010年には、Bookmakerによって「1ポンドコインの偽造が手に負えなくなって、政府が新しいデザインのコインを検討し始めるか否か」という賭けまで開設されてしまいました。

ちなみに「検討し始める」のオッズは2.5倍(たとえば「イギリスのプレミアリーグで、マンチェスター・シティが優勝する」と同じくらい)で、イギリス人にとっては「まあ普通にありえるよなあ…」という感覚だったのかもしれませんね。


◆でまねたいず ~さよなら1ポンドコイン?!


1983年以来発行されてきた丸い1ポンドコインは、新しいコインの発行により製造停止に。
毎年のように新しい模様を発表してきた結果、そのバリエーションは、何と25種類にもなりました!


http://www.royalmint.com/our-coins/events/the-last-round-pound-coins


私が特にお気に入りだったのが、シンプルかわいく、私が留学していた期間ともかぶる、2013年・2014年発行の国花シリーズ。

留学中と今回の旅で、イングランドの「バラとオーク」、北アイルランドの「アマとシャムロック」、ウェールズの「リーキと水仙」の3種類をゲット。




スコットランドの「アザミとブルーベル」が手に入らなかったのが残念ですが、まあコインがなくなるわけではなし、次の機会に探せばいいかと思っていたのですが…


MINTさんのWebページを見ていたときに飛びこんできたのが、"Demonetise"という言葉。

“新しい1ポンドコインを発行するにあたり、これまでの1ポンドコインは、2017年10月15日にDemonetiseされます。”


ここで使われているDemonetiseとは、「(通貨などの)通用を廃止する」という意味。moneyとしての力を無効化するとか、法的な正当性をなくすとか、そういうニュアンスがあるようです。

つまり、2017年10月15日以降、古いコインは通貨としての能力を失うということ。どうやら、政府は早急なコインの移行を目指しているようで、今年の10月15日以降、古いコインは一般のお店や自動販売機では受け付けてもらえなくなるようです。(ただし、銀行へ持ち込めば、期日後でも交換してくれるらしい)

ちなみに回収されたコインは、新しいコインを作る材料にされてしまうそうで、とりあえず、私がどこかのレジで、スコットランド国花のコインに出会うことはもう不可能なんだな…と寂しい気持ちになりました(´`)

日本ではいまいちデマネタイズな感覚が薄いというか、いまだに古い500円硬貨も見かけないわけではないですし、昭和23年発行の穴なし5円黄銅貨も一応お金として使用できる(!)らしいので、油断していましたね…


◆1ポンドコインを変えるのは大変な話


私はのんきにコレクションの話などをしていますが、実際にポンドを使って生活をしている人にとってはかなり大変そうです。

1ポンドコインは、日本でいうところの100円玉。コインの中でも特に活躍の機会が多いのです。




パーキング、ゲームマシン、証明写真機、コインランドリーなどの機械類だけではなく、博物館や駅にあるロッカーも、ほとんどが1ポンドコイン仕様。

さらには、大型スーパーのカートも、1ポンドコインをデポジットとして入れないと動かせない仕組みになっていたりと、想像以上に日常生活と結びついています。

←ショッピングカート。これはユーロのやつですが、イギリスもこんな感じです。盗難防止のため、コインを挿入しないと、他のカートと連結している鎖をはずせません。


Cheryl Hammond 撮影
https://www.flickr.com/photos/bsktcase/2711863436



そのようなコインを、色も形も重さも変えるというのですから、マシンを利用している業者は大変です。

イギリス駐車場協会は、1つのパーキング・メーターをアップグレードするのに、最低でも1万2000円程度はかかると試算。偽コインで割を食うことが多いとはいえ、新しいコインの導入でも出費が…と小売業の人は困惑気味のよう。

それに正直マシンの変更が間に合ってないみたいなニュースが聞こえてきますが、これから半年の新旧コインが混在する期間をどう乗り切るんでしょうね…。


◆ニセガネ作りは犯罪です。


現代のイギリスの状況を聞くと、ちょっとニセガネ作りに対する罪の意識が低すぎるのでは…と思ってしまいますが、必ずしもそうではないのです。

「貨幣を偽造すること」は、7つあるイギリスの大逆罪のうちの一つ。18世紀の初めごろまでは、偽造犯は死刑、流通していたものを所持していただけでも死刑、もしくは家族もろともオーストラリアに流刑(!)という厳しい処罰が下されていました。(もちろん現在ではそんなことはありません)

これは、国王が発行している貨幣を偽造することは、国王の威厳を損ねる行為だという考えによるもの。この厳しすぎる処罰により、1806~30年までの約25年間に、600人以上が逮捕され、313人が死刑となりました。

これだけ厳しい罰を課しながら、多くの逮捕者を出した原因の一つとして、「本物の精度が悪すぎた」ということがあるようです。

お札の話になりますが、当時のお札はシンプルすぎて偽造が簡単であった上、政府の採用した印刷方法の問題で、「偽札みたいな真札」というシロモノが流通。偽札の横行を招き、一般人を混乱させてしまいました。

こういう過去を考えると、一般人のモラルはもちろん大事でしょうが、容易にニセガネ作りをさせないだけの最新技術を詰め込む、為政者側の努力も大切なのかもしれませんね。


◆おわりに


一度記事にしたことがある1ポンドコインですが、改めて調べてみると、また違った見方ができて楽しかったです^^

2年前は、1ポンドコインにいろいろな模様があることを知り、それぞれの由来を調べて楽しんでいたのですが、実はそうやって年ごとに新しいデザインを出すことも偽造対策の一つだということは、今回初めて知りました。

コインの西暦と裏の模様、側面の文言が合致しているかどうかが、偽造を見抜くポイントの一つなのだそうです。
とはいえやっぱり、毎年発表される新しい模様が楽しみ! という側面も大きいんじゃないかと思っていますが(笑)

1ポンドコインの30~40枚に1枚は偽物ということですが、私も留学中、気付かずに使ったこともあったのかなあ。当時は全く意識せずに生活ができていたので、知らぬが仏みたいなところはあるのかも。

現在も手元に20枚くらい持っていて、割合を考えたら、1枚くらい偽物が混じっていたって、おかしくはないのですが…こんなことで死刑になったらイヤなので、結果は公表しませんね。



新しい1ポンドコインの模様は、なんと15歳の少年がデザインしたそうです。4つの国の国花が、一つの王冠の中にまとまっています。
かるがもリポート りたーんず! さよなら1£コイン?!
私が集めていた丸いコインが消えてしまうことは本当に寂しいですが、十二角形のコインも、これから次々新しい模様が発表されるのかなあと、ちょっと楽しみにしています。



さて、新しいお金を発行してすぐのときは、人々が本物を見慣れていないため、偽金が出回るタイミングでもあります。

うたい文句の“世界一安全な硬貨”は証明できるのか? がんばれ、イギリス!



P.S.
今回はコインの話が中心でしたが、実はコインに先駆けて、去年の9月に5ポンド紙幣がリニューアルしています。

こちらも偽造対策を多く盛り込んでいることはもちろん、これまでの紙のお札はボロボロになりやすかったので、ポリマー(プラスチック)製になりました。とても丈夫なので、カレーに浸けても大丈夫ですし、レコードの針の代用品として、音楽を奏でることもできます。気になる人はyoutubeで見てみてくださいね。




参考文献・Web


イギリス造幣局 Royal MintさんのWebページ
http://www.royalmint.com/

植村峻, 2004, 『贋札の世界史』 日本放送出版協会.

International Business Times
"One in every thirty £1 coins is a fake says Bank of England"
http://www.ibtimes.co.uk/one-every-thirty-1-coins-fake-says-bank-england-1484341

One pound (British coin)  -Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/One_pound_(British_coin)

The National
"How the new British pound coin will target counterfeiting – and lighten wallets"
http://www.thenational.ae/world/europe/how-the-new-british-pound-coin-will-target-counterfeiting--and-lighten-wallets



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