カレンダーとパンケーキ : 謎の祭日「パンケーキの日」!


あけましておめでとうございますと書こうと思っていたんですけど、もう節分も過ぎちゃいましたね^^;

今年は年末年始の休みを使って、イギリスに行ってきました! ロンドン名物年越し花火も一応見ることができたんですけど、近くで見るには事前予約のチケットが必要だそうで、私はかなり遠くから、ちっちゃくて一部建物で隠れているのを眺めていました。

さて、せっかく新しい年の初めにイギリスに来たのだからと、購入したのがこちら。


大英博物館のロンドンカレンダー! ロンドンの四季の風景が、大判の写真で楽しめます。

このカレンダーの面白いところは、いろんな国の祝日・祭日予定を入れているところ。たとえば、1月1日はNew Year’s Dayで共通として、1月2日の欄にはPublic Holiday(Scot.)の文字。これは、「1月2日はスコットランドのみ公休日ですよ」の意味。ちなみにロンドンやヨークのあるイングランドでは、1月2日が仕事始め。連合王国だとそれぞれにお休みの日が違う場合もあって大変ですねえ。

どんなサービスか、日本の祝日もせっせと入れてくれてあって、5月初めの(Japan)っぷりはちょっと圧倒的。

さて、2月11日にNational Foundation Day(Japan)と書いてあるのを見ておおーっとなった後、ふと目に付いたのは斜め下、2月13日の欄。


Pancake Day(パンケーキの日)

何だこの幸せそうな祭日!!

私は1月終わりに留学から帰ってきていたので、残念ながらこの時期の行事って経験がないんですよね…

というわけで、今回は謎の祭日、「パンケーキ・デイ」について調べてみました!


 ◆パンケーキ・デイとは?


日本のバレンタイン・デイやポッキーの日のように最近作られた記念日なんじゃないの?

そう思って調べ始めたら、イギリスではこの日にパンケーキを作ったり、フライパンを持って街を走り回ったり(!)、意外とちゃんとパンケーキの日をやっているらしい。

そしてその歴史は想像以上に古く、少なくとも15世紀にはこの日にパンケーキを焼いて食べていたんだそうで、現在確認できる最古のパンケーキレシピは1439年のもの!


https://www.flickr.com/photos/leejordan/400936297

そう、パンケーキ・デイは単なるパンケーキ記念日ではなく、れっきとしたイギリスの伝統行事の一つなのです。

ではなぜこの日にパンケーキを作るのでしょう? それはカレンダーの同じ日に書かれている「Shrove Tuesday(告解の火曜日)」というキリスト教の祭日が関係しているようです。
注:この記事での「キリスト教」は西方教会を指します。

キリスト教のカレンダーでいうと、その翌日からは断食と節制の時期である「四旬節(Lent)」が始まります。この期間はイースター(復活祭)まで続くのですが、その間キリスト教徒は断食をする(当時のぜいたく品である肉・乳製品・卵を食べない)伝統があるのだそうです。

「告解の火曜日」とは、その大切な時期を前に悔い改め魂を清める日ということで、大変敬虔そうな響きを持つ言葉ですが、カレンダーの同じ枠内に示されているパンケーキ・デイはというと、

「明日からは、バターや卵などを食べられない。」

→「なら、台所にあるバターや卵を今のうちに全部食べちゃえ!!」



という、発想の裏返しみたいな日なんですよね。バターなどの乳製品や卵を使い切るのに最適! ということでパンケーキを作り始めたそうです。断食前に栄養のあるものをたらふく食べて力をつけておく、という意味合いもあったようですね。

特にこの日をパンケーキ・デイと呼んでいるのはイギリス・アイルランド(及びそれらと関係の深い国)で、現代でも多くのイギリスの家庭では、この日に教会には行かなくてもパンケーキは作って食べているそうですよ。カレンダーにしっかり印字するくらい、現代でも受け継がれている文化なのですね^^

◆パンケーキ・デイの楽しみ方

①パンケーキを作ろう!


パンケーキ・デイのパンケーキは、私たちに馴染みのあるホットケーキみたいなものというよりは、クレープの生地に近い見た目のようです。


主な材料は小麦粉、卵、ミルク、水。お塩少々にバター適量と大変シンプル。

材料を順番に入れてかき混ぜ、バターを引いたフライパンで焼いてひっくり返すっていうだけの非常に簡単な料理なんだけど、それでも「絶対に失敗しないパンケーキの作り方!」みたいな謳い文句のレシピが結構あるし、「ひっくり返すのに失敗しても大丈夫なように、床はよく磨いておこう」っていうステップがあって、なんかちょっとおかしいぞ!

ゴールデン・シロップや砂糖をかけて、レモンを添えるのが伝統的ですが、最近ではチョコレートやフルーツをトッピングしてクレープ風にしてみたり、チーズやトマト、ハムを乗せて、それはもはやピザでは? みたいな状態になったりしている場合もあるようです。


②パンケーキ・レース


ただパンケーキを食べるだけでなく、もっとアクティブな楽しみ方もありますよ!

それがイギリスのいろんな町や村で行われている「パンケーキ・レース」! 

1445年、Olneyの街の女性が、パンケーキ作りに追われているさなか、告解の火曜日の鐘を聞き、フライパンでパンケーキをひっくり返しながら教会に駆け付けたのがパンケーキ・レースの由来なんだとか。

Olneyのパンケーキ・レース
By Lestalorm (Own work) [CC BY-SA 3.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons

Olneyのパンケーキ・レースの参加者は地元の女性たち。エプロンに三角巾を着用し、フライパンに乗せたパンケーキをひっくり返しながら、広場から教会までの380メートルを疾走します。ちなみに走っている間にパンケーキを3回ひっくり返すのがルール。

ロンドンでもいろいろと行われているようなんですが、 国会議員がエプロンをつけて疾走するという上院・下院・メディア関係者対抗戦が大変気になります↓


中には飛び入り参加が可能なものもあるみたいだけど、フライパンは持参しなきゃいけなかったりするので気をつけてね!


◆カレンダーとパンケーキ


さて、2018年のパンケーキ・デイは2月13日ですが、その日程は毎年変わります。これはパンケーキ・デイの日程がイースターの日程によって決まってくるから。

イースターの決め方は意外と複雑で、

「春分の日(キリスト教暦では常に3月21日)の後の最初の満月の次の日曜日」

という設定です。今年の3月後半の満月は3月31日土曜日。翌日の4月1日が次の日曜日にあたるため、この日が今年のイースターですね。

イースター前の46日間が、断食と節制を行う四旬節(Lent)。「四旬」とは40日を意味し、これはイエスが荒野で40日間の断食を行ったことにならっています。ではなぜ46日もあるかというと、期間中に6回ある日曜日は、主日であるため断食もお休みだから。

つまり、イースターから47日前がパンケーキ・デイ。イースターに引きずられて日程は毎年変わりますが、起点のイースターが必ず日曜日なので、「告解の火曜日」は必ず火曜日になるんですね。



とまあここまで書いてきて、時期などからややバレてるかもしれませんが、結局パンケーキ・デイってカーニバル(謝肉祭)と同源なんですよね。

カーニバル(Carnival)は俗ラテン語のcarnem(肉を)levare(取り除く)が由来だそうで、四旬節前の1週間ほどを「食べ収め」として楽しむ風習です。明日からしばらく慎ましくしていなきゃいけないから、今のうちに楽しんじゃうぞ! という発想はパンケーキ・デイと同じですね^^


ブラジル・リオのカーニバル
By Sergio Luiz (Flickr) [CC BY 2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/2.0)], via Wikimedia Commons

有名どころのヴェネツィアのカーニバル、リオのカーニバル、そしてイタリア北部の街でオレンジを投げつけあう(!?)オレンジ合戦も、始まる日付は違えど、期間中散々騒いで、パンケーキ・デイと同じ2月13日に一斉に終了します。

仮装したり踊り狂ったり、パンケーキを焼いて食べたり、地域ごとに呼び方や方法は違えど、いろんな場所で人々がこの日を楽しんでいるんだなあと思うと、何だか面白いですね。


おわりに 


パンケーキ・デイっていうふわふわした名前に惹かれて調べ始めたら、結局いつもと同じくらい長い記事になってしまいました^^; いろんな宗教や国・地域のカレンダーを重ねてみるのは面白いですね。

さて、日本では2月3日は節分でしたが、皆さんは豆まきをしましたか? 節分はもともと「季節を分ける」という意味で、立春・立夏・立秋・立冬それぞれの前日、1年に4回あったものでした。2月4日の立春が過ぎれば、雨水、啓蟄、春分と、春めいた節気が並びます。

一方で、パンケーキ・デイを含むカーニバルの風習は、キリスト教が広まる前にヨーロッパにあった春を迎える祭りが、キリスト教の暦に組み込まれて意味合いを変えたものという説もあるそうです。

カーニバルに続くLent(四旬節)の語源は、「春」を意味する古英語「len(c)ten」。ちなみにオランダ語では、今でも春のことを「lente」と呼んでいます。これらの語は、「長くなる(lengthen)」を表す古いゲルマン語にさかのぼることができ、次第に日が長くなっていく様から来ているのではと考えられています。

節分にパンケーキ・デイ。直接のつながりはないでしょうが、どちらもその日を過ぎれば暦上は「春」になるのですね。暦上の位置づけや、豆まきやレースという楽しい系の風習が残っていく点が似ていて、ちょっと興味深いです。

どちらも本当の春というにはまだ寒すぎるけれども、日の長さに草花の芽吹きに、春を見つけていく時期なのかなと思います。

と言った矢先、今年の立春はまたいきなりの寒波なんですけれども…。皆様風邪など引かれませんように、どうかお気をつけくださいね。





(おまけ) カレンダー整理メモ。こんな感じかな? つっつくと大きくなります。















参考文献・Web

CREA Web  パンケーキ・レースで盛り上がる懺悔の火曜日
http://crea.bunshun.jp/articles/-/4885

京の祭礼と行事(番外編)節分と豆まきの由来
http://www.kanshundo.co.jp/museum/saijiki_yogo/setubun01.htm

謝肉祭 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AC%9D%E8%82%89%E7%A5%AD

Olney Pancake Race
http://olneypancakerace.org/

Pancake Day Pancakes  BBC Food
https://www.bbc.co.uk/food/recipes/pancakebatter_13556

Pancake Day  Historic UK
http://www.historic-uk.com/CultureUK/Pancake-Day/

Shrove Tuesday   Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Shrove_Tuesday

Whyeaster.com
https://www.whyeaster.com/customs/lent.shtml


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